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このブログでは、自作小説の創作話や自作イラストの公開をしています(^_-)-☆
こちらのイラスト。に、なんとなんと!!
文樹妃さまがSSをつけてくださいましたよ。
し、か、も!
文樹妃さま初のBでLな作品です。
ではでは、ごゆるりとお楽しみくださいませ~^^
羽ウサギと俺の夏。
※このSSは腐な女性がお好きなテイストかもしれません。苦手な方はご注意ください。
「夏だよねえ」
突然背後から聞こえてきた声に、俺は漫画並みにコーヒーを吹いてしまった。
っていっても、アイスだったから熱くなかったのが幸いだが――なんて、とりつくろってる場合じゃなくて。
「うんうん、セミも元気に鳴いてるし、猛暑はやだよ、本当。こんな日はクーラーがきいた部屋にいるのが一番だよね」
「おい、お前また――!」
ガラステーブルの上に広がった黒い液体を慌てて拭きながら振り返り、俺は二度目の衝撃に言葉を失う。
不法侵入によるものではなく、そこに見たものの異常さに、だ。
「はあい、尚吾。どう、可愛い?」
「なっ、なっ、なっ……何が可愛いだ、この変態!」
俺は目の前のどこをどう見ても異常でしかない格好をした男に思いっきり叫んだ。
「変態とはひどいなあ。お洒落と言って、お洒落。尚吾が喜んでくれると思って、せっかく徹夜で手作りしたのに」
頭にくっついている白いウサギ耳にしか見えないものをくいくいと引っ張って、俺にウインクをするこの男。
昼夜を問わず勝手に俺の部屋に入り込み、勝手にくつろいで帰っていく――普通なら犯罪である行為を日常的に行っていても俺が警察に駆け込めないその憎たらしい理由とは、こいつがこのアパートの管理人であること、だけではない。
「そんなくだらないものを手作りすんな! 俺が喜ぶわけないだろ? それに何だよ、その変な浴衣――」
しごく当たり前の俺のツッコミにもひるむことなく、ウサギ男は着ていた緑の浴衣を何のためらいもなくするりと脱いだのだ。
「じゃあ、これでどーお?」
「わっ、ばっ、馬鹿! さっさと服……! って、な、何だ。服着てたのかよ」
浴衣の下にしっかりと履いていたらしい水色の涼しげなハーフパンツのゴムをいたずらっぽくパチンと引っ張り、ウサギは笑う。
「残念でしたー。いやあ、いくら尚吾とはそんな仲だとは言っても、真昼間からだなんて、兎羽、はずかしいもんっ!」
身をくねらせて裸の上半身を両手で押さえてみせる兎羽――兎の羽と書いて「トウ」と読むアパート管理人、兼俺の二十年来の幼馴染の頬を、俺は思いっきり引っ張ってやった。
「おいおい、誰がそんな仲だ、誰が。人聞きの悪いこと言うんじゃねえ、この変態!」
「いだだだだ――可愛い顔がだいなしじゃんかっ! 尚吾のおバカ!」
さすがに痛かったらしく、赤くなった両頬をさすりながら文句を言う兎羽だったが、それぐらいでひるむ俺ではない。
っていうよりも、こんな変態を相手にしている場合ではないのだ。
「いいからさっさと帰れ! 仕事があるんだよっ、仕事が。期日は明日までなんだから、お前と遊んでる暇はないの!」
ガラステーブルの上に広げてあった書類にコーヒーが飛ばなかったことに改めてほっとしつつ、俺は横に置いてあったメガネをかけて、兎羽を睨んだ。
「ほれ、集中するから帰れよ。お前だって管理人の仕事あるだろうが」
「ええーもっと尚吾いじって遊びたかったのに……」
ご丁寧にもウサギ耳をくねくねさせながら兎羽は上目使いに俺を見る。
「そんな目で見ても可愛くねえから。ったく、腹減ってんなら冷蔵庫にあるもんテキトーに食っていいから、食ったら帰れよ」
背を向けてそう言ってやると、仕方なさそうに兎羽は「ふわーい」とふざけた返事をしてキッチンへ向かった。足音でそれを確認した俺は、やっとほっと息をついて書類に目を走らせる。
さっき書いた図面――今度のクライアントのための家の設計図だ。
半分に減ってしまったコーヒーを飲みながら、もう一度最終チェックの作業に入った。
今は全部パソコンでやっている作業だったが、どこか納得が行かない時だけ俺は手で図面を引く。
そうすることでなぜかどこに違和感を感じるのか、何が足りないのかがわかる気がするのだ。
家族が多いクライアントのために、部屋数や収納もできるだけ広くとり、子供たちのためのプレイスペースもあり、庭もある。要望にもきっちりと予算内で応えられた、と自分でも自信はある。
けれど、何かが足りない――。
それが何なのかがわからず、俺はため息をついてメガネをはずし、伸びをした。
キッチンに目をやると、そこに兎羽の姿はなかった。
先ほどまで何やら音を立てていたので、食事だけして、帰って行ったらしい。
カウンターに置いてあるラップをかけた皿を見つけて、俺は目を瞠る。
卵とハムのサンドイッチ――俺の好物だ。
兎羽が作っておいていったに違いなく、気づけばちょうど空腹を訴えた腹をさすって、有難く頂戴することにした。
「ん、うまい」
思わず声が出た。兎羽のやつは、実はきっちりと料理もこなすし、家事だって仕事だってちゃんとやる。
雑然としていた部屋の中がいつの間にか整理されていることにも気づいて、なんだか変な気分で頭を掻く。
そうだ。勝手に入り込んで、勝手にくつろいで帰っていくとはいえ、そういえばいつもこうやって、食事を作っておいたり、たまった洗い物や洗濯がやってあったり、家の中が片付いていたりする。
実はあいつに助けられていることも、少なくなかったり――。
「ちょっと言い過ぎたかな」
変態、といつもながらに罵って追い返したことにほんの少し罪悪感のようなものを感じかけ、俺は急いで頭を振った。
いやいやいや、全部あいつが勝手にやってることで、俺が頼んだわけでもない。
しかも言葉の通りあいつは変態で、いつも変なコスプレとやらをして、俺の都合などかまいもせず勝手にやってくるんだ。
それだけではなく、本当の意味で「普通(ノーマル)」だとは言えないあいつの嗜好を俺は知っていた。
小学校の頃から知っていた兎羽は、ずっと普通の友達だった。
今みたいに変な格好なんかもちろんすることもなく、俺に冗談めかして迫ってきたりもしなかった。
彼女だっていたし、どっちかと言えばもてるほうでとっかえひっかえ――当時は俺が注意したりもした。
本気で付き合ってんのかって。
その時、兎羽は予想外に傷ついた目をして、俺をじっと見つめた。
どうも今から思えばあの瞬間、兎羽は本当の自分を俺に明かすべきなのか、迷っていたのかもしれない。
中学を卒業して、兎羽の両親が離婚した時、一人っ子であるあいつはそのどちらにもついていかずに、全寮制の高校に進んだ。
普通の公立に入学した俺は、それから随分長い間、兎羽と会うことはなかった。
そう、このアパートに入居するまで。
まさに鳩が豆鉄砲くらったような顔だったかもしれない。
再会した兎羽は、もう今のあいつだった――いつでも怪しいファッションに身を包み、自分の嗜好を隠そうとしない、同性愛者。
俺だとわかった時の衝撃はあいつだって相当だったようだけれど、結局のところ、兎羽は兎羽だってわかったし、別に個人の自由だと思ったから、変わらず付き合うことにした。
そのことに感激したのか、何なのか、兎羽はその日からこうして俺の部屋に入り浸るようになったのだ。
あいつのプライベートには干渉しないでいるんだけど、どうも友達が少ないわけでもないし、なんでやってくるのかなんてわからない。
ただの暇つぶしなのか、面白がっているのか――いつも笑ってくっついてくる兎羽に、ノーマルである俺は正直逃げ腰でいるわけだが、冗談なのはわかっているから、結局こうやって幼馴染を続けているのだった。
「ふう、うまかった。っていうかいいかげん終わらせねえと――わっ、もうこんな時間かよ」
午後も遅く、日が傾いているのが見えて、俺は慌てて立ち上がった。
一人暮らしの空しい習慣から、俺は洗濯物を取り込みに行こうとベッドの横を通り過ぎかけ、布団の中のふくらみに気づいた。
そこには、夏用とはいえ厚い布団にくるりと巻かれるようになって、寝ている兎羽がいたのだ。
「なんだ、帰ったんじゃないのか……」
思わず眉を寄せ、ぼやくも、あまりにすやすやと気持ちよさそうに寝ている顔を見たら起こす気にもなれず、そのままほっておくことにした。そしてベランダに向かいかけた足を止め、俺はソファに戻った。
人の部屋でまた勝手にくつろいだ対価として、洗濯物は兎羽に取り込んでもらうことにしよう。
なんだかんだ言ってあいつがやったほうが、綺麗にたたんでくれるしな。
心の中で舌を出し、俺は目を閉じた兎羽を見下ろす。
その顔は女とも思えるぐらいに綺麗で、整っていて――俺はなんだかおかしな気分だった。
兎羽がもしも女だったら、こいつと付き合ってもよかったのに――。
「ってわーっ、お、俺、何を考えてんだ、何を! 仕事しろ、仕事!!」
突然沸いた妄想を頭から振り払い、俺はまたメガネをかけ、書類に向き合うことにした。
「ううん……尚吾」
その時、ベッドの中から甘い声で呼ばれて、俺は危うく飲みかけたコーヒーをまた吹くところだった。
振り返ったら、ちょうど兎羽は寝返りを打ったところで、布団がはがれた素肌の背中が覗いていた。
クーラーの風がちょうど当たることがなんだか気になって、俺は立ち上がる。
布団をかけなおそうとしたら、兎羽は子供のように丸まったまま、またもごもごと何かを呟いた。
「……寂しいよ」
ちょうど聞き取ろうと耳を寄せたところに呟かれて、俺は思わず兎羽を見つめる。
そのあどけない寝顔は、今の兎羽ではなく、あの頃の幼い顔に似ていた。
両親が離婚した理由も聞いてはいなかったけれど、もしかしたらこいつのこともあったのかな。
そんな風に考えると、なんとなく胸が痛んだ。
いつも明るくへらへら笑っている兎羽。
でももしかしたらその胸には大きな傷があって、いまだに寂しさが抜けないのかも――。
なんだか複雑な気持ちで布団をかけてやると、兎羽は心なしか悲しげだった表情をゆるませ、安心したように寝息を立て始めた。
――まあ、いいか。こうして入り浸るくらい。
別に今彼女がいるわけでもないし、ほとんど自宅で仕事をしてる俺にとって、困ることもない。
優しい気持ちになって、仕事を始める。
そして思い浮かんだアイデアに、俺は設計図を置き、パソコンに向かった。
足りない部分さえわかれば、あとはすぐに直せるのだ。
集中して作業を進めて、いつしか部屋も薄暗くなった時、急に部屋の明かりがついて、俺は目を瞬かせた。
「おはよん、尚吾」
いたずらっぽい笑顔で書斎の入り口に立っていた兎羽の姿に俺は更に目を見開いた。
だってそこにはさっきまでの変なウサギ耳やら、浴衣やらとは完全に違う、スーツ姿の大人がいたからだ。
「今からちょっとヤボ用でね、仕方なく。夜ご飯作っといたから食べてよ。じゃあ、俺、行くね」
仕事モードの兎羽は前にも見たことがあるのだが、どうにも調子が狂う。
っていうか、スーツまで持ってきてたのかよ、まったく。
兎羽はそんな俺の心のぼやきには気づくこともなく、髪まできちんと整えて玄関へ歩いていく。
「ああ、行ってらっしゃい」
危うく出てしまった言葉に、兎羽はにやにやと笑う。
「行ってくるよー尚吾。もう、なんだかんだ言って、ちゃーんとここ、俺のスイートホームだってわかってくれてるんじゃん、尚吾ってば!」
ふざけた言い方だけど本当に嬉しそうな兎羽に、俺は「馬鹿、何言ってんだ」とか「言葉のアヤだ」とか言い返してはいたけれど、そんなに腹を立ててはいなかった。
キッチンから美味しそうなカレーの匂いがしていたし、ちらっと見たリビングに畳んだ洗濯物が置いてあるのも見えたからだ。それに何より――。
先ほどの兎羽の寝言を思い出してぼんやりした瞬間、「尚吾」と呼ばれ、顔を上げる。
瞬間、やわらかい感触が当たった場所は――俺の唇。
兎羽の顔が離れて、すばやく笑ったいたずらっぽい瞳に、俺は驚きから解放されるやいなや、思いっきり叫んだ。
「とっ、兎羽ーっ!!」
「へへん、ぼーっとしてるから悪いんだよーだ。ゴチソウサマ」
ハートマークまでついてそうな嬉しそうな声音で言われて、俺は鼻息も荒く盛大に兎羽を追いかける。
アパートの廊下をエレベーターまで走りながら、兎羽は手を振る。
「待て、この変態野郎――!!」
捕まえてどうする、というわけでもないけれど、とにかく俺は走った。
そうでもしないと、妙にドキドキしている自分の心臓を許せない気がしたから。
兎羽はウサギのごとく軽やかに駆けていく。
忘れ去られた自宅の書斎で、プリンターから静かに印刷されている紙のことなどすっかり忘れて、俺は夢中でその背中を追いかけた。
家族が集まるリビングをもう少し広くとり、キッチンをオープンにした、新しい設計図。
兎羽が見たら、どう思うだろう。
なんて頭の端で考えながら。
END
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いかがでございましたでしょうか?
この調子で、尚吾が兎羽のペースにはまってオチていくのかなぁとか妄想したくなりますよね。
兎羽が可愛いです。尚吾と早くくっついてもらいたいです^^
文樹妃さま。
ステキなSSを本当にありがとうございました。
コラボ第二弾ですね^^すっごく嬉しいです
こんな素敵なSSを書いてくださった文樹妃さまのブログは、下のURLからGOですぞ。
文樹妃の独り言。
http://munjuhee.blog.shinobi.jp/